困り感がない発達障害のパートナーのお悩み
今回は成人の方の発達障害の困り感の番外編として、発達障害のパートナーを持つ方の困り感について、お話したいと思います。
実は、大人の発達障害の問題の多くは、職場でのコミュニケーションと、パートナーとのコミュニケーションの2つに分けられます。
今まで職場でのコミュニケーションについては、JIJICOさんでのコラムの方でも書かせていただきました。
そしてご家庭で発達障害の方がパートナーであるがゆえの困り感をいくつか挙げてみたいと思います。
発達障害を理由に働くことを放棄した方
最初はご本人が職場で上手く行かない、または不適応な状態が続くということでご相談を受け始めました。
その際、パートナーの方も来られている場合もありますので、時間が許す限りパートナーから、客観的な情報も得つつ、パートナーの方の愚痴も聞き、ガス抜きをしてもらうということも意識しています。
そうすると、よかれと思ってパートナーを支えていたのですが、パートナーからの圧力がなくなることにより、発達障害を持つ方は診断書や手帳を取った後、働くことに対して、前向きな気持ちを持たなくなるという現象が一部で起こっています。
これは一体なぜなのでしょうか?少しそうなるメカニズムについてお話したいと思います。
閉じたコミュニティでは自分は傷つかない
要はゆでガエル状態ですね。そのままが居心地がいいので、あえて傷ついたり、しんどいことを言われる、家以外のコミュニティに出て行きたくなくなるようです。
では生計はどうしているかというと、発達障害を持っている方が旦那さんで休職であったり、退職をすると、収入が減ったりなくなったりして困りますので、結果的にパートナーである奥様が働き始めます。
それが1ヶ月も続くと、発達障害を持つ方は傷つかない環境が完成してしまうので、あえて働きに行かなくなるということです。
もちろん困り感を持たせるために、それとなく気づきを促すのですが、結果的に衣食住娯楽が満たされて、一度止まってしまうと次に動き出すまでにエネルギーが必要なこともあって、そのまま立ち止まってしまう方も居られます。
そのため、発達障害がベースにあるうつ病や神経症の場合は、受容と厳しさのさじ加減であったり、面接の間隔の調整に配慮することが必要です。
ただこれがご本人が「私は傷ついたので」という御印を掲げている限り、状況改善はしないので、治療者側の問題だけではなく、ご本人自身が発達障害のことや特性を十分に理解していないときに起こってしまうことが多いように感じます。
再び動き出すには
先程も少し触れましたが、物体も人間も慣性の法則があります。
【動いているものは動き続けようとするし、止まっているものは止まり続けようとする】
のです。そのため、完全に止まり切る前に、仕事までは行かなくても、ルーティンワークとしての日々することを決めていく必要があります。
しかもそれは毎日決められた時間にすることであり、日々同じことをしていく必要があります。
起きたい時間に起きて、その時思ったことをすることを「ルーティンワーク」だと言う方が居ますが、これは大きな間違いです。
我々治療者からは、まずは起きる時間(最初は無理のない範囲から始めます)、起き続ける時間(多くの発達障害とうつ病を併発している方は結構早い時間から眠くなるようです)、日課として毎日負荷が少なく出来ることとして、散歩、掃除、料理、ジム通い、図書館通いなどを提案することが多いです。
そうやって、完全に止まり切る前に治療を始めることで発達障害を持つ方が、楽な閉じた世界に閉じこもることを避けることが出来るのです。
悲しい結果
発達障害を持つ方のパートナーの多くは、我慢強いタイプです。そのため結果的に最後は燃え尽きて、パートナーを支えることに疲れ切ってしまいます。
また発達障害を持つ方も、閉じた世界に閉じこもることで守られているために、働いていたときのような困り感を失ってしまうことも多いです。
そのため、以前もADHD児童のコラムでもお伝えしたように、困り感を持ってもらうためには、ご本人の閉じた世界を開く必要があります。
働くニーズの再確認が一番直球なのですが、なかなか発達障害の方にそれをご理解いただくのが難しい場合があります。
なのでパートナーさんの困り感にもよりますが、一度距離を置いてもらう(生計も別々、生活も別々)ということも考えていただきます。
そうすることで、働くことの意味であったり、必要性を再認識してもらうのです。
もちろんご夫婦であるのに別居であることや、別居することにより発生するお金のことなどあるかと思いますが、その点は上手にお互いのご実家などを利用するなどして、建設的な関係のための別居であることをご理解ご協力いただき、巻き込むことも治療の一環としては大事なことです。