不適応行動への対応について
先日、大阪市内の小学校で児童の不適応行動に対応するための問題解決手順というテーマで研修をしてきました。
学校現場で今お困りのこととして多いのは、不登校問題と、集団における発達障害の不適応行動(クラスを乱す、授業の妨害をする、興奮すると手に負えないなど)のようです。
今回研修でお伝えした内容をこちらでもお伝えしていきたいと思います。
そもそも不適応行動とは何なのか?
一言で言うなら、そうすることで、何かしらのいいことがあったために、身に付けた行動様式のことです。
行動分析学では【誤学習】と呼んでいます。誤った学習ということですね。
しかし一方で、
「そうせざるを得なかった行動」でもあります。
そうしないとその時点でのお子さんはやっていけなかったという考え方です。
大事な点は、決してあなたや学校の先生を困らせようと思って身に付けたわけではなく、許容は出来なかったとしても、そうやってご本人は身や心を守ってきたということです。悪意ではなく、そうせざるを得なかったということですね。
ですので、今後目指すべきは、不適応行動を適切な行動で上書きをしていくということになります。
行動とは?
また【行動】を誤解している方が多く、この点も大事なことなので是非抑えておいて欲しいのですが、お子さんの不適応行動を適切な行動で上書きするためには、【行動】とは何かということを正しく定義しておく必要があります。
行動分析学における行動とは
①誰が見ても
②客観的で ③測定可能なもの |
のことを指します。主観によって変わるものは行動とはなりません。
例えば「静かに授業を受ける行動」は【静かに】という基準が先生によって揃っていない場合は、多少ガヤガヤしていても、静かだと認識する先生も居たら、呼吸音以外音が聞こえるなら静かではないとする先生がいる場合もあります。そういう場合は教室に音量計をつけ、「~~デシベル以下を静かである」と定義することで、客観的に測定することが出来ます。
このようにお子さん自身がどんな行動を身につけるべきかは、こういった行動の定義が明確で分かりやすい言葉で説明されていることが、重要となります。
適応行動を上書きする
1.行動強化
このように適応行動を上書きすると考えた時に、大事なことは、児童自身にそうするだけの理由や、魅力がある、ということが前提になります。
我々もそうですが、会社から与えられた研修を無理やり聞かされるのは出来たら避けたいことですが、同じ受講するものでも自分自身興味があるテーマで、自分で申し込んだものは積極的に聞かれるかと思います。
同じように、その行動を身につけることが、その児童自身にとって、魅力的に映るように見せていく必要があります。
2.行動強化の方法
てっとり早いのはご褒美です。
その行動をすると、褒めてくれたり、好きなおもちゃが買ってもらえると分かれば、すぐにその行動を取るようになります。
ただし、一度で与えると、毎回ご褒美がないと頑張らなくなるので、そのあたりの調整は考える必要があります。
ご褒美と言っても、既に述べたように、物から言葉まで色んなものがありますので、その児童自身にあった方法を取り入れていきましょう。
トークンエコノミー法という「ご褒美1回ごとにシール1枚。10枚でご褒美と交換」という目で見て分かる方法を推奨しています。
3.タイミング
ご褒美を与えるなら、望ましい行動をした直後です。
直前でも、しばらく時間が経ってからでもいけません(しばらく後で与える場合には、言葉で後からご褒美がもらえることを保障する必要があります。ここは後述)。
与えるタイミングを間違えないようにしましょう。
4.注意点
ご褒美を仮にシールで分かるようにしていた場合、既に与えたシールを、他のペナルティとして回収することは絶対してはダメです。
というのも他のペナルティで回収を始めると、児童は「頑張ってもどうせ、他のことでチャラにされるんだろ?じゃあもうこのゲームやーめた!」となるわけです。
ですので、行動とシールを連動させている場合は、上げたものは回収しないと、必ず保障して下さい。
見過ごせない不適応行動が他にある場合には、他の約束と仕組み作りが必要です。
児童本人を混乱させないためにも、ルールを作ったら、大人の都合で勝手に変えることはしないように気をつけましょう。
不適応行動を助長させない
また不適応行動を消して行くために大事なポイントがいくつかありますので、そちらについても説明します。
1.不適応行動に対する最適解は「無視」か「正しい行動を教える(モデリング)」
不適応行動を目にしてしまうと、思わず「ダメでしょ!」「ちゃんとしなさい!」と言いたくなるのが、大人としては当たり前だと思います。
しかし、例えば何かで叱られている時に、ちゃんと最後まで聴くことをターゲット行動としていたとします。その際「ねーねー、その言葉の意味って何?」と質問をするなど、話を聴かないこともあるかと思います。
その場合は、まず端的に結論とダメだった理由を分かりやすく伝えるということは大前提として下さい。発達障害の児童を叱るときには端的に分かりやすくです。
その上で、上記のような質問を返して来た場合、「ちゃんと最後まで聞きなさい!」と応じるのは不適応行動を助長します。
なぜなら、そうやって途中で質問をすれば、聴きたくもない説教から逃げられたわけですから。
ですので、目に入ると細かいところが気になってくると思いますが、基本的にターゲット行動を達成したらご褒美、以外の行動は無視をして下さい。
と説明をすると、『でも無視をすると、どんどん質問してきて、最後には注意をしてしまうんです』という親御さんや先生も居られます。
これは一番ダメなパターンです。そうすると、児童は「ははーん、僕が今まで質問してきた音量や聞き方では止められなかったんだな。じゃあ次はもっと大きな声で、さらに何度も言わないと説教は止められないぞ。次からはもっと大きな声で質問しなきゃ」ということを学習するわけです。
ですので、こういう場合正しい方法は、説教は続けながら、手で制するが正解になります。説教自体は止まりませんし、相手にその逸脱行動がダメなことが伝わります。ただ、手の動きを入れると説教に集中出来なくなるなら、完全無視を徹底して下さい。
2.モデリング
先程も少し出てきましたが、注意をするのではなく、「こういうときにはこうするんだよ」という正しい行動様式を教えることをモデリングと呼びます。
先程の例では、手で制して、今は黙っておくことが正解であることを伝えました。
また『なんでこんなこと(悪いこと)したの!?』ではなく、『こういうときにはこうするんだよ』ということを端的に伝えてあげることが優先となります。
感情的に叱りたい気持ちも分かります。
ですが、それは次の不適応行動の種になっているかもしれません。
もちろん聖人君子たれとは言いませんので、いいことはいい、ダメなことはダメと伝えることはしつけ上必要なことです。
その上で、今回お伝えしたような、不適応行動に対するアプローチも是非活用してみて下さい。