発達障害ベースの不登校・引きこもり拒否治療
生き方改革塾 臨床心理士の舩曳です。
発達障害のうち、ADHDやASDを背景に持つ不登校や引きこもりのご相談も多く、受けるので、今回は治療で行っていることを説明したいと思います。
原因
発達障害を持つお子さんの場合、不登校や引きこもりになるリスクは、他のお子さんに比べ、高いと言えます(もちろん全ての発達障害が、そうなるという意味ではありません)。
その理由として
1.学校の勉強についていけない(板書している間に、次の内容に移っている、聞きながらメモを取ることが難しいなど)
2.友人関係などの対人関係の躓き
3.学校をサボることのメリットを知ってしまった
が挙げられます。
1つの項目だけで、不登校になる理由となる場合もありますし、行きたくない理由が複数に渡ることもありますが、
それぞれ対処法と、治療アプローチについて説明をしたいと思います。
勉強についていけない
聞きながら書くことが難しかったり、板書をするときに、文節(「おかあさんに雑巾を用意してもらう」)ではなく、「お」「か」「あ」「さ」「ん」「に」というように、1文字ずつを書き写すため、遅くなるお子さんが居られます。
授業についていくことは困難で、板書だけで精一杯です。
大人であれば、写メを撮るだけで終わることが、学校では板書は『手で書き写すこと』を強要されます。
こうなると、板書は諦め、後から何かの形で補う方法を考える方が現実的です。というのも、学校によっては、一番遅いお子さんに合わせてくれるところもあるかと思いますが、授業のスピードとして、板書にそこまで時間を割くことが出来ない学校も一定数あるからです。
可能な範囲だけノートを取るようにし、残りは後から先生に聞く、特別学級を利用するなどして、無理に頑張らないようにしましょう。
また近い将来、学校の授業は板書が苦手な子のために、録画や動画配信などをしてくれる時代にはなると思います。
対人関係の躓き
これは発達障害の有無に関わらず、起こりえます。
いじめ・いじめられだけではなく、なんとなく浮いている気がする、友だちが作りにくいなど、学校に行きたくなくなる理由は様々あります。
ただでさえコミュニケーションが苦手なお子さんが多いので、周りに合わせて臨機応変に応答したり、休み時間に共通の遊びをすることは、当事者のお子さんにとって非常にエネルギーを使います。
いじめなど明確な原因があれば、まだ対処も可能ですが、上記したように「学校に明確に原因があり行きたくない」よりは「学校に積極的に行く理由がない」ということも、モチベーションという意味で、問題の根が非常に深いです。
後述する、学校をサボるメリットを知ってしまったとも関連しますが、学校に行かなくても別にいいという状況を生み出さないためにも、まずは対人関係については、お子さんも保護者の方も学校に多くは期待しないようにしましょう。
少なくとも保護者の方は『学校は友だちを作るところ』という幻想は捨て、お子さんが達成感を持ちやすい目標を持てるように考えましょう。発達障害の方の中には一定数、頑張ったら勉強出来るようになる子も居るため、お子さん自身がペースを掴むまでは、宿題を一緒にするなどじっくり長期スパンで考えることも必要です。
学校にサボるメリットを知ってしまった
ADHD然り、ASD然り、これが一番の問題です。
学校に行っても行かなくても起こる結果が一緒ということを、一度知ってしまうと、「なんで学校行かなくちゃあかんのん?勉強もついていかれへんし、友だちもおらんし、先生は話を聞いてくれないし」ということになりやすいです。
特に共働き、シングル等で、保護者は家を出る時間が決まっている場合や、帰ってくるのが遅い場合、『じゃあお母さん会社行くから、学校にちゃんと行くのよ』と言ったところで、サボることの旨味を知ってしまったお子さんは学校に行く習慣を継続することが難しくなります。
よくご相談を受ける内容で気になるのが、お金を払って医療やセラピー、カウンセリングに任せれば、保護者は何もしなくてもよいと思っている場合です。
医療では薬、セラピーやカウンセリングではメカニズムやお子さんにとっての学校に行くメリットを噛み砕いて説明することは可能です。ですが、月に1時間その子と会うセラピストよりも、月に29日と23時間一緒に過ごしている保護者による環境調整からの方がたくさんの影響を受けるのは極自然なことです。
特にサボることのメリットを知ってしまった背景には、
・学校はしんどいところという思考から切り離せないという発達障害独特の思い込み(気質)
・父性の存在が希薄(=自律性が弱い)(性格)
実際の父の存在よりも、父性が弱いご家庭だと、正しいことは正しい、間違っていることは間違っていると諭す自律性が育ちにくいです。そのため、どうしてもしなくてはいけない感覚や、しんどくてもすべきものはするという感覚が弱くなります。
・保護者が家を出るまで逃げ切れば勝ちという感覚(性格+環境)
という3つの要因が考えられます。
特に父性の存在が希薄な場合は自律性そのものが弱いために、楽な方、楽な方へと逃げるようになります。
しんどいことには立ち向かう必要もなければ、逃げていても衣食住はなんとかなるという思いが積み重なり、不登校や引きこもりになる傾向が強くなります。
発達障害であっても、自律性が育つ家庭では、不登校になるリスクは減らすことが出来ます。
また逃げ切れば勝ちという感覚は、よくお子さん自身のせいにされることが多いですが、よくよく聞くと実際に父が単身赴任、母も働いていて、お子さんと向き合うことを避ける傾向があるご家庭では、ご家庭そのものの考え方が、この「逃げ切れば勝ち」という思考になることが多いようになるようです。
そのため、治療構造を作るためには、学校に行かなかった日は、ゲーム、スマホ、TVやパソコンなど娯楽関係は電源が入らない状態にするくらいのことが必要なのです。
お子さんが学校に行かなかった場合には、保護者は上記娯楽を全部会社に持っていくくらいの覚悟が必要です。
そうです。
先程言った、学校に行った場合の結果(帰ってきたら思う存分ゲームが出来る)と、学校に行かなかった場合の結果(登校しなかったら、その日は娯楽がない)が一目瞭然で分かることが必要なのです。
もちろん病気などやむを得ない事情もあるでしょうが、そういった場合はそもそも娯楽をしている余裕などあるはずもなく、療養をしているのが当たり前です。
子どもとは、ともすれば低い方向に流れる傾向があります。特に父性の存在が希薄ならなおさらです。
この話を聞くと、
『難しいですね』
とか
『面倒ですね』
と、たまに保護者から返って来ますが、それはお子さんが誤学習するまで、構造化しなかったためとご理解下さい。
特に発達障害を持つお子さんにとっての世界の見え方は、自分に対して否定的であり、逃げ道を探そうとしたり、この世界に絶望していたりします。
その中で頑張れる子に育つためには、世界を見えやすく、分かりやすく目に見える形で構造化することが必要です。
各御家庭によって事情はあると思いますが、不登校、引きこもりには本人だけの発達障害だけではなく、その他にも要因があり、保護者である我々のあり方にも影響を受けている可能性があるということを、是非知っておいて下さい。